テーマと題材

 小説の文章としての構成要素は会話文と地の文になりますが、その内容を構成する要素は、テーマと題材です。

 テーマとは、作者が伝えたい想いのことです。題材とは、書かれる内容のことです。

 同じテーマでも題材が異なれば違う小説になりますし、同じ題材でもテーマが異なれば違う小説になります。

 例えば「不治の病」を題材にしたとします。ある作者は、その不治の病を純愛に絡めて、人の心の潔白さを表現するかもしれません。また別の作者は、自殺と絡めて、命の尊さや強さを表現するかもしれません。

 同じ不治の病を題材に扱った小説でも、前者は「恋愛小説」として大衆の喝采を浴びるでしょうし、後者は「文学」として一人の少年の人生を変えるかもしれません。

 テーマと題材の組み合わせ次第で、どういう小説になるかが決まるのです。

テーマを書き込んではいけない

 テーマについて、小説を書く時に重要な点があるとすれば、「テーマを直接書いてはいけない」ということです。

 例えば、作者が「友情の素晴らしさを伝えたい」と考えた場合、小説のラストで『友情とは、何事にも変えがたい素晴らしいものなのだから、大切にすべきだ』などと書いてしまうと、興醒めなのです。

 この場合は、友情をテーマにしたストーリーを読者に読ませることで、読者が自然と「友情って何て素晴らしいのだろう」と感じてしまう。この流れが大切です。直接書かずに読者の心に伝え、心を動かす。これが感動させるということで、テーマがしっかりした小説は感動につながります。ではテーマがしっかりしていれば文句なしかというと、それだけでは不十分です。

読むかどうかを決めるのは題材

 もう一つの要素である題材が魅力的でなければ、そもそも読んでもらえないからです。

 テーマを友情とした時、では題材はどうしようか……と悩んだ末、「野球」が題材ならどうでしょう。野球に興味がない読者は、手を伸ばしにくくなってしまいます。ただ一方で野球好きの方は興味津々で読むことになるでしょう。

 題材選びは、読者層選びも兼ねているということです。自分の小説をどういう人に読んでほしいのか、自問しながら題材を探すと楽しいでしょう。

ターゲット小説という例外

 小説の構成要素はテーマと題材だというお話をしました。

 しかしこれが当てはまらない場合もあります。どういうものかというと、読者層(=ターゲット)がピンポイントな小説です。以降これをターゲット小説と呼びます。

 ターゲット小説に当てはまらないのは、「テーマが必要である」という前提です。ターゲットに満足してもらえれば良いので、「テーマ不在」でも問題ないのです。

 例えば推理小説であれば、「読者をだましてやろう」とか「驚きのトリックを見せつけてやろう」といったゲーム的嗜好で書かれることがあります。そして何より、推理小説の絶対条件である、ロジカルに謎が解かれ、その手掛かりは事前に読者に提示されているべきだというポイントは、テーマだ題材だと言う以前の絶対ルールとなります。そのジャンルの作者と読者の間で約束された、ローカルルールがあるということです。

 どんなにテーマが良くても、ローカルルールを無視しては読者は手放しで讃えてはくれないでしょう。無言の「約束」を守ることが、読者の満足を引き立てます。

 ヒロインキャラが可愛くて、ただそれを眺めていれば良い、という作品であれば(実際にあるのかどうかはさておき)、そのヒロインの派遣社員の父親がクビになってヒロインが進路に悩んで……なんてことはまったく不要です。そんな重たいモノを読者は望んでいません。こういった場合、ヒロインの父や母の存在すらできるだけ匂わせないように、ストーリーに絡ませないように神経を使います。読者に楽しんでもらうために、いらない世界を排除して、作者の伝えたいメッセージが、読者の満足をジャマしないか。そうすることで、読者は小説世界に没入できるようになります。

 そんな職人めいた作り込みが見受けられる小説が、ターゲット小説です。
 
 テーマを大切にして、何かを伝える小説を書こうとする。
 テーマを排除して、ターゲットを満足させる小説を書こうとする。
 どちらも変わらない、小説を書くという行為です。

 自分の小説がどちらを目指したいのか意識すると、小説を書きやすくなるかもしれません。またもちろん、ジャンルによってはテーマの確立とターゲットの満足は「両立するはずだ」というケースもあるでしょう。

 書きたいジャンルと相談しながら、自分のスタイルを見つけていきましょう。

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