三人称小説

 小説の基本的な書き方としては二種類あります。一人称小説と三人称小説です。今回は三人称小説について見ていきましょう。

特徴

 三人称小説とは、地の文に「三人称」が用いられる小説のことです。三人称とは、「彼」「彼女」「太郎」「花子」など、第三者を指す言葉です。
 またこの場合、地の文に一人称(私、僕)が出てくることはありません。

 一人称小説と違い、地の文は作者のボキャブラリーを駆使して書くことができます。この点から、初めて小説を書くなら、三人称小説をおすすめしたいです。

地の文に嘘を書けない

 一人称小説と異なる大きな特徴として、地の文に嘘を書けない、というものがあります。

 悪い例、良い例の順に見ていきます。

 部屋の中には三人の男がいた。それぞれの名を太郎、二郎、ミチルといった。【中略】ミチルは女だったのだ。

 部屋の中には三人いた。それぞれの名を太郎、二郎、ミチルといった。【中略】ミチルは女だったのだ。

 もし主人公が「三人の男がいる」と認識していたとしても、地の文で嘘を書いてはいけないということです。

三人称主観視点

 三人称小説にはいくつか種類があります。簡単にいうと視点をどこにおくかという問題です。一つだけ知っておけば十分です。「三人称主観」といった名称で呼ばれます。

 視点者を一人、明確に設定して進める方法です。例えば地の文に太郎と二郎が同じ比重で登場するような時、太郎の視点で物語を追うと、しっかり決める書き方です。

  ストーリーの都合で、章が変わったタイミングで視点者を変えることもできます。

 常に一人の視点者がいるために、読者は物語に感情移入しやすくなります。三人称小説でもっともポピュラーな書き方です。

 注意点を見ていきましょう。

1、視点のブレ

 読者に、視点者の身になって読んでもらうために、文章表現は常に視点者中心となるように気を付けます。

 別の人物に視点が揺らぐと文章を読みにくくなり、「視点のブレ」と呼ばれる初心者泣かせのミスとなります。

 そうは言っても、誰か他の人物の行動を追い掛ける際はその人物に視点が寄るのは仕方ないです。できるだけ、視点がブレないようにしましょう、というニュアンスです。

 視点のブレを少なくできれば、自然と視点者が強調され、読者は物語を追い掛けやすくなります。いくつかコツがあります。

他人の感情を断定しない

 まず一つは、視点者以外の人物の感情を断定しないことです。エスパーではないので、視点者には他人の感情が分かりません。

 太郎は不覚にも見入ってしまった。それ程に彼女は美しかった。彼女は太郎に気付くと、恥ずかしがって顔を背けた。

 太郎は不覚にも見入ってしまった。それ程に彼女は美しかった。彼女は太郎に気付いた様子で、恥ずかしそうに顔を背けた。

  最初の例では彼女が「恥ずかしがった」と断定しています。別に気にならないレベルかもしれませんが、感情を断定すると、その瞬間、彼女側の視点に移ってしまいます。

 そこで、断定しない表現に置き換えます。「気付く」と「恥ずかしがって」を変えたのが後者です。別にどちらでも気にならないかもしれませんが、視点が強調されてくるのはなんとなく伝わると思います。

 こういった積み上げを行うことが、視点者目線でストーリーを楽しむということにつながります。

 表現として便利な「~様子で」については、あまりに多いとうっとうしくなりますので、適度に使いましょう。

視点者の受け身表現を使う

 視点者以外の人物も行動します。この時、視点者の受け身表現を使うと、視点を強調できます。

 やり過ぎるとくどくなりますし、そもそも他人の行動を描くのは避けられないことです。視点のブレだと騒ぐ部分ではありません。他者の行動を書くべきシーンでは、あまり気にせずそのまま書いた方が読みやすくなるでしょう。

 あくまで、視点を強調できる書き方だ、というだけです。

 太郎は田中の姿を認め、椅子から立ち上がり挨拶を交わした。田中は慣れた手付きで、名刺を太郎に差し出した。太郎はぎこちなく名刺を受け取った。

 太郎は田中の姿を認め、椅子から立ち上がり挨拶を交わした。田中から差し出された名刺を、太郎はぎこちなく受け取った。

 以上、視点のブレを防ぐコツ、強調するためのコツでした。

視点者に見えないことも書ける

 今度は三人称主観小説の便利な点をご紹介します。

 視点者の目に映らないことがらでも、本人の近くで発生した内容なら書いても違和感が(あまり)ないということです。書いたり書かなかったり、ある程度融通がききますので、ストーリーに都合の良い記述ができます。一人称小説よりも制限がゆるい、と考えてください。

 太郎は机に肘をつき考え事をしていた。すると、太郎の背中に蝿が止まった。そこへ忍び寄る、蝿叩きを握りしめた弟。太郎は不穏な気配を背後に感じ、恐る恐る振り向いた。

 一人称小説では書けないシーンですが、三人称小説では許せる範囲(かどうかは、結局人によるのですが……)です。

 本人が気付いていないことがらを描写できますので、一人称よりも書きやすい場面が度々出てきます。

2、作者の見解を入れない

 三人称主観は便利でかんたんなように見えますが、やはり、気を付けないといけないポイントはあります。しかも、一人称小説にはない観点です。

 地の文章に、作者の独自見解を、一般論のように書き込まないようにすることです。作者の独特な感性が地の文に出てきてしまうと、読者は「この作者とは意見が合わないようだ」となって、小説と読者の間に壁が発生してしまいます。

 海の近い町だった。そういった町はどこでもそうであろうが、粘々と張りつくような嫌な潮風が吹いていた。

 その町は海が近かった。太郎にとって、こういった場所につきものである潮風は、体中に張りつくように感じられて、心地好いものではなかった。

 最初の例は、潮風が嫌いな作者が前面に押し出されています。海辺の町の人がカチンときてしまいます。

 後者のように、登場人物がそういう感覚を持っているというふうに書けば問題ありません。

 素行の悪さを物語るように、彼女は髪を茶色に染めていた。

 彼女は髪を茶色に染めていた。

 前者の例では、時代による「偏見」が入っています。後者のように、ただ事実だけを述べれば良いのです。

3、主語の省略は慎重に

 視点者は一人だとしても、地の文に他の人の名前も出てきます。すると主語の省略ができる場面とそうでない場面が出てきます。作者はすんなり読めても、読者は「誰の話?」と混乱するかもしれません。

 主語を省略できるかどうかは、一人称小説でも注意すべきことではありますが、一人称小説なら、主語が省略されたなら主人公なのだろう、という予想が立てやすいです。

 三人称小説ではより一層注意が必要ということです。「私」や「僕」が「太郎」になるのですから。思っている以上に、省略しにくいです。

 また、ワンシーンに三人以上の人物が登場するなら、「誰が、誰を?」という情報をはっきり書く必要が出てきます。作者が思っている以上に、読者には伝わらないものです。「ちょっとくどいかな?」と思っても、丁寧に書くように心がけましょう。

 太郎が部屋を訪れると、そこには二郎とミチルがいた。ミチルは眠っている。二郎が見つめていたので、太郎は笑った。

 太郎が部屋を訪れると、そこには二郎とミチルがいた。ミチルの寝顔を二郎が見つめていたものだから、太郎は笑った。

 二郎が誰を見つめていたのか、重要な情報ですが、勢い余って省略してしまうと、どうとでもとれる文章になってしまいます。

知られざる文章ルール

 これは絶対という訳ではないですが、三人称主観小説では比較的そういう傾向にあるようだ、というルールがあります。

 それは地の文に出てくる名前の書き方です。

 視点者(主人公)は下の名前で書きます。

 家族は続柄(父、母、祖父)で書きます。

 その他人物は名字で書きます。視点者に近しいメインキャラであれば下の名前で書かれることが多くなります。

 お手許の三人称小説を確認してみてください。その通りになって――え? そうでもないですって? そ、そんなはずは……。

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