時間軸のコントロール

 現在、過去、未来と時間軸があった時、小説は、できるだけ時間軸を狂わせないように書くべきです。できる限り、現在から未来に向けて、すんなりと書いていきましょう。その方が読みやすくなります。

 こんな話を聞くと、「そんなの当たり前でしょう、時間軸を崩すなんて、普通はしないでしょう」と思う方もいらっしゃるでしょう。その通り、普通はしません。ですが、必要があればやっていい技法と言うこともできます。

 ということで、今回は時間軸を崩す例をいくつか挙げます。

1、中盤のショッキングなできごとを冒頭にもってくる

 序盤がなだらか過ぎるストーリーの時に使われる手法です。

 例えば推理小説では事件が起きますが、事件が起きるまで、ほのぼのとしたシーンを何十ページも読み進めなければいけないとなると、読者は大変です。退屈になって、途中で読むのをやめてしまうかもしれません。

 そこで、中盤に用意されているショッキングな場面を冒頭に持ってきて、読者を食い付かせます。そして冒頭が終わったら、時間が巻き戻って、ほのぼのが始まる、というふうにします。

 読者は「うーん、なんかやたらとほのぼのしていて退屈だけど、最初の場面が気になるから、頑張って読んでみようかしら」となります。

 この手法が使いやすいのは、「冒頭が終わって時間が巻き戻ったのだ」ということが分かりやすいからです。

 時間軸が崩れても、読者が混乱しないならそれは別に問題ないのだ、ということです。

 まさにそういう理由から中盤のシーンを冒頭に持ってきている推理小説がこちら、『月光ゲーム』(有栖川有栖)です。チェックしてみてください。

2、終盤に明かされた事実を整理する

 終盤に衝撃の事実が明かされた場合、そこに行きつくまでに様々な伏線が用意されていることが多いです。こういった伏線はさらっと説明してそのままエンディングに進んでいくケースも多いです。

 しかしたまに、わざわざ時間軸を巻き戻して、事細かに説明するケースもあります。例えば人物レベルでの種明かしのケースです。便宜上、「黒幕」と呼んでしまいます。思いもよらない人物が黒幕で、彼が思いもよらない行動をとり続けたことで、驚くべき結末に行き着いた――そんな内容を、時間軸を戻して、黒幕の視点で、「あの時私はこうしていたのだ」ということで、何ページにも渡って回想を行う、というケースです。

 もちろんこのケースでは、段落というか、章や節が変わることになります。「ここから黒幕の回想ですよ」というのが、読者に対して分かりやすく示されますので、問題はないのです。

3、回想録

 例えば冒頭で以下のようなやりとりがあります。

 トムが病室に入ると、友人はベッドに横たわったまま、力なく笑った。

「おいおいジョニー、その怪我どうしたんだよ。まるでミイラ男じゃないか」

「聞いてくれよトム、ひどい話さ……」

 という感じで一行空けて、ジョニー目線で回想が始まるというものです。これも読者が混乱することはないから良いのですが、「冒頭のやりとりが必要なのか?」という点に注目したいところです。「一人称小説」の過去語りのトピックでも記載した通り、回想するということは、視点者は死なないということです。ジョニーは大怪我をして包帯だらけになりますが、死なないのです。

 それならば冒頭のやりとりはカットして、ジョニーの災難から物語をスタートした方が、読者はもっとハラハラできるでしょう。

 もし序盤のやりとりの後で回想に入る作品を見つけた際には、回想録ならではの良さが隠されているかもしれません。語り口の妙だったり、回想して現在に戻ってくることで、特殊な伏線が成立していたり。注目してほしいと思います。

 重要なことは、時間軸を意味もなくいじってはいけないということです。そして裏を返して、意味があるなら時間軸をいじっていいということです。

 時間軸をコントロールすることで、「より良くなる」「読者も混乱しない」なら、それはもう立派なテクニックと呼べるでしょう。

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