説明と描写

 小説を書く際、「描写」という言葉がよく使われます。WEB小説の感想コメントの中には「描写が足りない」、「描写するべき」というのをよく見ますが、さて描写とはなんでしょうか。

 人物描写というと、その人物がどんな見た目なのかを書けば良いのでしょうか。心理描写というと、今どんな気持ちなのか書けばいいのでしょうか。風景描写というと、そこがどんな場所なのか書けばいいのでしょうか。

 ただ書くだけでは、読者から結局「描写が『できていない』」と言われてしまうかもしれません。

 理解するためには、まずは「説明」と「描写」を区分けすることです。両者は違うものです。

 そこで今回は説明と描写について見ていきます。

行動を描く

 説明とは、直接的に伝えることです。伝えたいモノがある時、「こうなんだ」と書きます。「伝えたいモノ=こう」です。

 描写とは、間接的に伝えることです。説明せずに伝えることです。伝えたいモノがある時、「こうなんだ」と書きます。「伝えたいモノ≠こう」です。

 描写は間接的に伝えること……と言われても、ぴんとこないと思います。一番分かりやすい描写の方法は、行動に置き換えることです。

 例を挙げます。前者が説明、後者が描写です。

自宅マンションに着き、残念な事実が発覚する。私は鍵を落としたらしい。

自宅マンションに着き、私は玄関ドアの前でポケットをまさぐった。鞄の中を引っかき回した。溜め息が出た。

 上記の例での伝えたいモノというのは、鍵を落とした(鍵が無い)ということです。描写の方は、行動に置き換えて伝えようとしています。

 説明は分かりやすく、描写は遠回しです。

 描写は曖昧だといえます。下手をすると伝わらない可能性まであります。ということで、描写した後で「鍵を落としたらしい」と説明を追加するのも有効な手段です。また、重要なシーンではなくて、すんなり話を進めたい場合であれば、描写は控えて説明だけで進めた方が読みやすくなるでしょう。

 基本的には、二つのバランスをとるのが大事だということになります。

 ただ例外もあります。「ここは説明するべき」とか「ここは描写するべき」というのもあるのです。

 説明した方がいいケースは、例えば推理小説で現場が密室であるという場合、ドアや窓の鍵の形状を「描写」されても、読者は困るのです。そこははっきり説明してもらわないと、細工が可能な鍵なのかどうかの判断ができなくなってしまいます。

 続いて描写すべきケースですが、これは複数あります。順に見ていきましょう。

人物の気持ちを描写しよう

 説明ではなく描写すべきものの一つは、登場人物の「気持ち」です。喜怒哀楽の感情は、直接書かない方が小説らしいです。

 前者が説明、後者が描写です。

 タロウは斉藤に対してすごく怒っていた。

 タロウは斉藤をにらみつけた。

 ミチルはジロウの言葉を嬉しいと感じた。

 ミチルはジロウに抱きついた。

 行動に置き換えることで生き生きとした場面が生まれます。登場人物に個性が出てきます。行動派なのかグチグチ悩むタイプなのか、そういった部分を表現できます。

 上記の例ではごく簡単な行動に置き換えていますが、行動の内容によっては、文章がどんどん分厚くなってしまう可能性もあります。

 ショートショートなどに登場する、ステレオタイプ(記号的)な人物の場合、個性的な描写は求められず、ストーリーをテンポよく進めることが重要です。そのために、描写ではなく説明で済ませてしまうというのも、例外的に認められるでしょう。

 通常の小説ジャンルにおいては、気持ちは描写した方が良い、というお話でした。

人物の性格を描写しよう

 もう一つ、説明ではなく描写した方がいいのは、人物の性格です。

 彼は優しかった。

 彼は子どもの視線に気付いた。彼は自分のために盗んだパンを放って渡すと、腹を鳴らしながら歩き去った。

 描写の方が、「彼」の性格がにじみ出てきます。ディズニーアニメの『アラジン』ではこんなシーンがあったような気がします。

 ドラマ、アニメ、映画といった映像作品では、人物の気持ちも性格も、言葉に出して説明することがあまりありません。登場人物が行動します。説明でなく描写するとどうなるか、参考というよりは答えそのものになっています。映像作品を研究対象として鑑賞すると、また違った楽しみ方ができるようになるでしょう。

 気持ちや性格を、説明ではなく描写するということが分かりました。これで「人物描写」「心理描写」に自信が出てきたのではないでしょうか。もちろん、人物の見た目に関しては、「説明」した方が分かりやすい部分があるでしょう。二つの伝え方のメリットを上手く使っていきましょう。

風景描写

 もう一つの描写、「風景描写」というのもよく聞く言葉です。これは行動に置き換えられませんので、物語の舞台がどういう場所なのか、比喩などを使って、いい意味で曖昧に、分かりやすく伝える技法となります。

 個人的な見解ですが、「風景説明」となってしまっても、問題はない部分だと思います。むしろ簡潔になって読みやすくなるかもしれません。

 説明するというのも結構難しくて、「よくある公園だった」などと書いてしまうと、公園のイメージには人それぞればらつきがありますから、その後のストーリーが伝わりにくくなる可能性もあります。

 風景描写は難易度が高いです。現代小説と異世界ファンタジーでも表現の「濃度」が変わってきますから、読書の際には風景描写に注目して、参考にしましょう。

 私などは普段、風景の箇所を流し読みしてしまうクセがあります。皆さんはそうならないようにしてください。

テーマを描写しよう

 最後にもう一つ、説明ではなく描写すべきポイントを挙げます。それは作品の「テーマ」です。作者が読者に伝えたいメッセージです。

 テーマの描写方法としては、登場人物の行動に置き換えるというよりも、ストーリーで起こる出来事すべてに置き換えて表現します。テーマは「伝わらないと意味がない」とさえ思える大切な部分です。だからこそ、登場人物にセリフで代弁させるとか、そういった形で「説明」しがちです。説明したい気持ちを、ぐっとこらえてほしいと思います。作品にテーマを込めましょう。書かれていないからこそ、伝わることがあると思います。

 作品を読んで良かったと思う時があるはずです。どのシーンが良かったとか、どのセリフが良かったではなく、その作品が良かったと、ただ漠然と思うことがあるはずです。

 作品全体を通して、作者のメッセージに胸が打たれるということ、それが感動したということです。何か伝えたいものを強く持っているのであれば、心に留めておいてほしいと思います。

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